東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)116号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 審決の理由の要点2及び3(一)は当事者間に争いがなく、この事実と前記争いのない本願発明の要旨、成立に争いのない甲第二(本願明細書)、第三(同昭和五七年八月二七日付手続補正書)、第四ないし第六号証(第一ないし第三引用例)によれば、本願発明も各引用例記載の発明もガス状のアクロレインとアンモニアを反応器内の触媒床で接触反応させてピリジン及び3―メチルピリジンを製造する方法に関するものであり、本願発明は右反応を触媒の渦動層内で行うのに対し、各引用例には両原料ガスの混合を触媒の流動床内で行うと記載されているが、右の渦動層も流動床も、固体触媒が反応器中で浮遊状態の帯域を形成している触媒床の形態を表すものであつて、技術的に変わるところがないものであることが認められる。
三 取消事由(1)について
1 前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、アクロレインとアンモニアの両原料ガスを反応させるため反応器への導入、両者の混合に関し、「アクロレインをアンモニアと気相で触媒に接触させて渦動層反応器中で反応させることによりピリジン及び3―メチルピリジンを製造する方法において、アクロレイン及びアンモニアをガス状で互いに別々に反応器に供給することを特徴とするピリジン及び3―メチルピリジンの製法が判明した(以下「の記載」という。)。通常これらの反応ガスは互いに混合された状態で渦動層に供給される(以下「の記載」という。)」(三頁一二行ないし二〇行)、「本方法を実施するには通常の構造の渦動層反応器を使用する。しかしこの反応器は本発明によれば、アクロレインとアンモニアとを互いに別個に供給し、これらのガスが渦動層中で初めて混合されるように構成する。」(以下「
2 前掲甲第四ないし第六号証によれば、各引用例には原料ガスを反応させるため混合に関し「アクロレイン、アンモニア及び酸素(存在する時)の混合は流動床内で行うことができ、あるいは別法として触媒床を通す前に反応剤を混合することができる」との第二工程の記載があること(第一引用例三欄二〇行ないし二二行、第二引用例五欄九行ないし一二行、第三引用例四欄四三行ないし四五行、但し第二、第三引用例には「(存在する時)」の記載はなく、また、第二引用例には「酸素」の次に「及び水蒸気」の記載がある。)(以下「……流動床内で行うことができ」までを「の記載」、その余をの記載という。)、第一、第二引用例には「触媒は流動床の形又は静止床の形のどちらでも用いることができる。」との記載があること(第一引用例二欄二一行ないし二二行、第二引用例四欄一九ないし二〇行)が認められる。
3 各引用例の及びの記載は、アクロレイン、アンモニアの原料ガスを反応させるための混合の方法をその場所、時期の観点から互に対比して記述したもので、の記載は両原料ガスを反応器外で混合させて混合ガスを形成した後、これを反応器内の触媒床(前記のとおり流動床と静止床を含む。)に導入し反応させる方法を示していることはその記載自体から明らかなところであるから、右技術は本願明細書において従来技術とされているの記載の技術と同じである。次に、各引用例のの記載は両原料ガスを反応器内の流動床である触媒床に導入した後混合する方法を示していることはその記載自体から明らかなところであり、後記認定のとおり、各引用例に特段の記載があることが認められない以上、の記載は両原料ガスを反応器に別々に導入する技術を示しているものと認めるのが相当であるから、右技術は本願発明の及び
そうであれば、本願発明と各引用例記載の発明が両原料ガスを別々の導入口から反応器に導入する点で一致すると判断した審決に誤りはない。
3 前掲甲第四ないし第六号証により認められる原告の指摘する第一引用例の三欄六行ないし一一行、第二引用例の四欄二一ないし三五行、第三引用例の四欄二一行ないし三〇行の第一工程の記載は、やはり前掲甲号各証により認められる被告の指摘する第一引用例の二欄二八行ないし三欄五行、第三引用例の四欄一三行ないし二一行の記載及び右各記載と同旨の第二引用例の四欄二一行ないし二八行の記載を参酌すれば、いずれも純粋なアクロレインを用いる代りにプロペンを酸化させて得たアクロレインを用いてもよく、その際右酸化に要する量より多く酸素を供給すれば、第二工程において反応器の触媒床に別途酸素を供給しなくてもプロペンが酸化されたアクロレインと未反応の余剰酸素の混合ガスがアンモニアと反応することによりピリジン及び3―メチルピリジンが生成されるとの趣旨を記述したもので、右混合ガスとアンモニアの反応器への導入方法に関する記述と認めることはできない。
また、前掲甲第四ないし第六号証によるも、各引用例に示された実施例が果たして同一導入口からアクロレインとアンモニアの両原料ガスを導入した場合であると断言してよいか否かは明らかでなく、仮に右実施例が原告主張のように両原料ガスを同一導入口から導入した場合に関するもので、別々の導入口の場合を含まないとしても、そのことだけで前記の解釈が当然に左右されることにはならない。
右のほかに各引用例に前記の解釈を左右するに足りる記載はない。
5 したがつて、取消事由(1)は理由がない。
四 取消事由(2)について
前掲甲第二、第四ないし第六号証によれば請求の原因四、2の事実が認められる。
しかし、前掲甲第四ないし第六号証によれば、各引用例の実施例において生成されるピリジン及び3―メチルピリジンの量は使用する触媒の種類、組成割合、原料ガスの割合、接触反応時間等により異なることが認められ、他方本願発明における生成量がかかる諸条件とはかかわりなく、本願発明の要旨である両原料ガスの反応器の導入方法に起因することを認めるに足りる証拠がない以上、かかる反応の際の諸条件を無視して、単に両者の生成量のみを対比して効果を論ずることは相当とはいいがたい。
したがつて、取消事由(2)も理由がない。
五 前記三のとおり審決に引用例の誤認はないから、各引用例記載の発明も本願発明もアクロレイン及びアンモニアの両原料ガスを別々の導入口から導入する点で一致するとした審決の判断に誤りはない。したがつて、両者は審決の理由の要点3、(三)に摘示された点において相違するものということができるが、原告は右一致点に関する審決の判断に誤りがないとした場合各導入口の位置決定が当業者が適宜設計し得る程度のものであることは争わないところであり、また、前記四のとおり本願発明が各引用例記載の発明に比し格別の効果を奏するものとも認められないから、本願発明は各引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に推考し得たものというべきである。
六 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
1 アクロレインをアンモニアと気相で触媒に接触させて渦動層反応器中で反応させることによりピリジン及び3―メチルピリジンを製造するに当り、アンモニアをガス状で下から渦動層反応器に導入しかつアクロレインをガス状で直接渦動層に導入することを特徴とするピリジン及び3―メチルピリジンの製法。
2 前記第一番目の発明において、アンモニア及び/又はアクロレインを不活性ガスと混合して供給することを特徴とするピリジン及び3―メチルピリジンの製法。